モンゴルで英語を話す人は多くありません。ですので、モンゴル語を話せない私たちのような旅行者は、英語が話せるモンゴル人を見つけると、つい頼ってしまいます。
モンゴル人が英語を学習しにくいのは、分かるような気がします。現代モンゴル語では、ロシアと同じキリル文字を採用しています(厳密に言うと全く同じではありません)。
ロシア語を学んだ人は経験があると思いますが、キリル文字というのは、普段ローマアルファベットに親しんでいる人にとって、とてもトリッキーな文字なんですね。
キリル文字とローマアルファベットは一見よく似ていますが、微妙に発音がずれている文字があります。たとえば、キリル文字の「H」はローマアルファベットでは「N」の発音に相当し、「P」は「R」の発音になります。こんな具合ですので、モンゴル人が英語を学ぶのが下手だとしても、ちょっと納得してしまいます。
それでもごくまれに、英語がむちゃくちゃ上手いモンゴル人に出会うこともあります。そういう時は、向こうも英語を練習したがっていることもあり、意外と会話がはずみます。
ある時、エルデネトという街を訪れたときのこと。
エルデネトはモンゴル第2の都市で、銅工業で栄えている街です。残念ながら中を見ることはできませんでしたが、エルデネト鉱山はアジアの中で最大級の鉱山らしいです。
そんなエルデネトの街に行ったとき、運悪く国際会議が開かれているということで、街のホテルというホテルは満室でした。訪れるホテル、みな「満室」と断られてしまいます。ちょっと、これはヤバい、ということで、「次に空室が見つかったら、有無を言わずそこに決めよう」ということで、再びホテル探しへ。
そうして、ようやっと見つけた空室は、意外なことに町の中心にある小さなホテルでした。レセプションのおばさんはまったく英語がわかりません。何とかチェックインして、街の情報を聞き出そうと、モンゴル・英語通訳アプリでコミュニケーションしようとしますが、なかなか通じない…。
そこへ通りかかったのが、20代後半から30代前半のモンゴル人若者4人組です。彼らはみんな英語がわかるようで、中でも一人、とびぬけて英語がペラペラの若者がいました。
彼は警察官(多分官僚クラス)、他の3人は彼の友人であり、ともに国際会議に出席するためにウランバートルからやってきたとか。よく聞くと、他の3人は、外科医師、日本で言う厚生省に相当する省庁の役人と、薬品メーカーの幹部だといいます。
なんとも、キラキラまばゆいばかりのエリート集団です。これからモンゴルの未来を背負って立つ、期待の若者たちという感じでしょうか。
(外科医と厚生省役人と薬品メーカーという組み合わせが、何ともきな臭い感じですが、まあ、そこは置いといて、話を進めます)
アメリカなまりの英語を話す彼に尋ねると、アメリカに短期留学していたんだそうです。この町では、他にも英語ペラペラの若者実業家と出会い、彼が言うには、大学カリキュラムでアメリカに語学留学するプランがあったんだとか。つまり、モンゴルの若者が集団でアメリカ留学し、そこで英語を身に付けたという話。
イギリスやオーストラリアではなく、みんな口をそろえて「アメリカ」留学なんですね。
何となく、ロシアと中国という大国の間にはさまれたモンゴル国の若者層を、親アメリカに傾けようとしている意図が感じられなくもないなあ、と思った旅でした。あくまで、私たちの印象ですが。